ベルリンでのTXT公演から数日。
静かな街デルフトで心を癒されたあとは、フェルメールの足跡をたどる一日。
K-POP遠征と芸術鑑賞という一見異なる体験が交差する、忘れがたい時間となりました。
この記事の内容
フェルメールが生まれた街、デルフトからハーグへ
デルフトの朝は、霧がかったような小雨と、石畳を打つ静かな雨音で始まりました。
早朝の空気には少し冷たさが残っていましたが、運河沿いの道を歩いていると、次第に心が落ち着いてくるのを感じます。
この日は、TXTの余韻を胸に抱きながら、美術と歴史に触れる1日を過ごすことにしました。
目的地はハーグ。
デルフトからハーグまではオランダ鉄道で約10分という短い距離にあります。
駅も分かりやすく、乗り換えの心配もほとんどありません。
ハーグ中央駅に到着すると、街の雰囲気が一気に都会的に変わり、スーツを着たビジネスマンの姿も多く見られました。
駅からマウリッツハイス美術館までは、広々とした通りを歩いて10分ほど。
トラムが行き交い、整然とした街並みの中に、突如として歴史を感じさせるクラシカルな建物が現れます。
それが、今回の目的地であるマウリッツハイス美術館です。
フェルメールとの再会。思わず涙が出そうになった理由
マウリッツハイス美術館の展示室に足を踏み入れた瞬間、空気がふっと変わったような静寂に包まれました。
高い天井からやわらかい光が差し込み、壁にかけられたフェルメールの作品がまるで息づいているかのように感じられます。
その中でもひときわ目を引いたのが「デルフトの眺望」。
広がる空、遠くに並ぶ家々、水辺の静けさ──構図も色も驚くほど繊細で、その場に立ち尽くしてしまいました。
画面に吸い込まれるような感覚とともに、自分が歩いたデルフトの街がその風景の中に重なっていきます。
同じ空気を吸っていた、あの時間が、ここに記録されているようで胸が熱くなりました。
そして、「真珠の耳飾りの少女」との対面。
彼女のまなざしはどこか親しげで、それでいてどこにも届かないような遠さを感じさせます。
まるで心の奥をそっと覗き込まれているような、なんとも言えない感情に包まれました。
涙が出そうになるのをこらえながら、ただ静かにその絵の前に立ち続けました。
これまで何度も画像で見てきたはずの絵なのに、本物は全く別物でした。
五感すべてで感じる「再会」は、旅の途中だからこそ味わえた特別な瞬間だったと思います。
美術館の充実ぶりに驚き。展示構成と空間演出が秀逸
マウリッツハイス美術館は、建物自体はこぢんまりとして見えますが、その中に詰まっている作品の密度は驚くほど濃厚です。
外観のクラシカルな趣とは裏腹に、内部は美しく整えられた展示空間が広がっていて、一歩足を踏み入れた瞬間から作品の世界へと誘われるような感覚に包まれます。
フェルメール以外にも、レンブラントやヤン・ステーン、ファブリティウスなど、17世紀オランダ絵画の巨匠たちの作品が所狭しと並んでいました。
壁の色合い、照明の配置、フレームの装飾、すべてが調和しており、ひとつひとつの作品が最大限に引き立つよう工夫されています。
展示室ごとにテーマ性があり、単なる陳列ではなく「物語としての美術鑑賞」が成立している点にも感動しました。
また、観光客が多すぎず、静かに絵と向き合える時間が保たれていたのも印象的です。
日本の有名展でよくある“人混み越しの名画鑑賞”とは違い、ここでは作品と一対一で向き合える贅沢な空間が広がっていました。
数時間でもまったく飽きることがなく、「また来たい」と自然に思わせてくれる美術館です。
まとめ|K-POP遠征でアートに癒された日
フェルメールの絵を初めて目の前で見たとき、自分がなぜこの画家に惹かれてきたのか、その理由がはっきりと分かったような気がしました。
光と影の繊細なバランス、静かだけれど内面を揺さぶるような人物の表情──それらがすべて、静かな感動として心に届いてきたのです。
そしてふと気づいたのは、感動の質は違っても、TXTのライブとフェルメールの絵画が自分に与えるエネルギーはどこかでつながっているということでした。
アイドルのステージで心が震えた瞬間も、美術館で涙が込み上げた時間も、どちらも「今ここにいる自分」が全力で生きている証のように感じられました。
K-POP遠征という目的でやってきたヨーロッパの旅。
その途中で、思いがけず美術に触れ、静かに心が整っていく時間が持てたことは、旅の中でもとても大きな意味を持っていたと思います。
予定通りでなくても、寄り道でも、心が震えたらそれはきっと「正しい場所」にたどり着いたということ。
そんなふうに思わせてくれた一日でした。